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【FIBER】先端生命工学研究所と米国カーネギーメロン大学との国際共同研究論文が米国科学アカデミー紀要に掲載されました

2021/01/13

このたび、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の髙橋俊太郎准教授、杉本直己所長・教授と米国カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)核酸科学技術センター(CNAST)などとの国際共同研究論文が米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌」に掲載されました。

細胞は小胞と呼ばれる膜で覆われた小さな袋状の構造体を形成します。この小胞では細胞外に放出される小胞はエクソソームと呼ばれ、その内部にはDNAやRNAといった核酸が含まれます。放出された後は体内を循環し、別の細胞に取り込まれます。その際にエクソソーム内部にあった核酸が、エクソソームを取り込んだ細胞内で機能することから、エクソソームは細胞間の情報伝達や物質伝搬に用いられていると考えられています。そのため、狙った細胞へ薬剤を届けるキャリアとしてエクソソームを応用する研究開発に注目が集まっています。そのようなキャリアとしてエクソソームを活用する際には、細胞に取り込まれる目印となるものをエクソソーム外表面に化学的に修飾する必要があります。しかしながら、そのように人工的に化学修飾したエクソソームは体内ですぐに分解されたり、エクソソーム同士が凝集したりするなど、その取り扱いが非常に困難でした。そのため、生体内で安定に存在するようなエクソソームの修飾技術が望まれていました。

FIBERは核酸科学の国際共同研究拠点として海外の様々な研究機関との共同研究を行っております。今回、FIBERの高橋准教授、杉本所長・教授とカーネギーメロン大学の核酸科学技術センター(The Center for Nucleic Acids Science and Technology (CNAST))は、従来核酸を内包するエクソソームの、外表面を別の核酸で修飾するという、エクソソームの新規化学修飾法を開発しました。ここでは、コレステロール修飾DNAでエクソソーム表面にDNAを結合させ、そこにポリマー重合の開始剤を有する相補的なDNAを結合させました。続いて、光原子移動ラジカル重合法を用いることで、ポリエチレングリコールなどの生体適合性ポリマーをエクソソーム表面から重合させました。それにより、生体内での分解や凝集を効果的に抑えられた化学修飾エクソソームを得ることができました。得られた化学修飾エクソソームは細胞へ取り込まれ、薬剤キャリアとしての機能を十分に有していました。さらに、今回の化学修飾エクソソームは、マウス体内で非修飾エクソソームより4倍以上の長い間血中を循環するなど、生体内での高い安定性を示しました。

本研究成果により人工エクソソームの大幅な性能の向上を実現しました。将来的には、高度な薬物および治療送達システムに活用できるエクソソーム技術の開発が期待できます。FIBERは今後も国際的な核酸研究の拠点として、様々な国際共同研究を推進して参ります。

【PNAS誌の掲載号】 PNAS誌へのリンクはこちらです。

【掲載された論文】“ Engineering exosome polymer hybrids by atom transfer radical polymerization”

・Lathwal, S. S. Yerneni, S. Boye, U. L. Muza, S. Takahashi, N. Sugimoto, A. Lederer, S. R. Das, P. G. Campbell, K. Matyjaszewski, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 118, e2020241118 (2021)

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。