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【FIBER】RODE特別研究員、遠藤准教授、杉本所長の研究成果が独国化学会の学術誌「Angewandte Chemie International Edition」のInside Back Coverを飾りました

2016/11/11

このたび、先端生命工学研究所(FIBER)杉本直己所長、遠藤玉樹准教授、RODE, Ambadas B.特別研究員(JSPS外国人特別研究員)の研究グループは、RNA同士の相互作用で伝令RNA(mRNA)の部分構造が変化し、遺伝子の発現が調節される可能性を見出しました。

先端生命工学研究所(FIBER)の杉本直己所長らの研究グループは、核酸が作る様々な構造による遺伝子の発現への影響を定量的に解析してきました。その成果として、タンパク質を合成するための鋳型となるmRNAに、四重鎖構造と呼ばれる特徴的な構造が形成されると、遺伝子の発現が抑制されることが分かりました。四重鎖構造を形成する配列は癌遺伝子のmRNAなどに多く見られることから、癌細胞では四重鎖構造が形成されずに癌遺伝子の発現が増大していることが考えられます。

本研究では、癌細胞内での存在量が増大する転移RNA(tRNA)に着目し、tRNAによる四重鎖構造の形成への影響を評価しました。研究グループは、化学合成した短鎖RNAを用意し、tRNAの存在下で四重鎖構造を形成するかどうかを検討しました。その結果、tRNAと短鎖RNAとが相互作用することで、短鎖RNAが四重鎖構造ではなくヘアピン構造という別の構造を作ることを見出しました。さらに、癌遺伝子に由来する配列を持つmRNAからのタンパク質の発現を評価したところ、tRNAを加えるとタンパク質の発現量が増大することが示されました。一方で、もともと四重鎖構造を形成しない配列の場合は、tRNAを加えてもタンパク質の発現量に変化はありませんでした。

tRNAは、一般的にはタンパク質を合成するリボソームにアミノ酸を運ぶ役割を持った分子であると考えられています。つまり、タンパク質を合成するのに必要なのがtRNAの役割であるというのが科学の常識でした。本研究による成果は、細胞内に普遍的に存在するtRNAが、分子間の相互作用で別のRNAの構造を変化させ、遺伝子の発現を調節するという、従来の常識を超えた機能を有している可能性を示しています。

本研究は、癌遺伝子に関わる新たな遺伝子発現の調節機構を示した成果として注目され、化学分野を代表する国際学術誌である、独国化学会の学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載され、掲載号の中裏表紙(Inside Back Cover)を飾りました。

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も、生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。

【Angewandte Chemie International Editionの中裏表紙】

【掲載論文】

tRNA Shifts the G-quadruplex–Hairpin Conformational Equilibrium in RNA towards the Hairpin Conformer
(A. B. Rode, T. Endoh, and N. Sugimoto, Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 14315)