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【FIBER】がん細胞内において、DNAのカタチの変化に応じて遺伝子発現が活性化される新規の機構を解明

2018/02/06

 甲南大学先端生命工学研究所の建石寿枝講師、杉本直己所長・教授、フロンティアサイエンス学部の川内敬子講師の研究グループは、遺伝子中に形成された四重らせん構造という特殊なDNA構造が、細胞のがん化やがんの悪性進行による細胞内の環境変化に応じて、がん遺伝子を活性化する新規のメカニズムを見出しました。この研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society誌」に掲載されました(2018 年1月17日号の表紙(Supplementary Journal Cover)に掲載)。また、本研究内容は2018年1月29日付日刊工業新聞及び2018年2月21日付神戸新聞朝刊に取り上げられました。

 遺伝子からタンパク質が作られる遺伝子発現機構ではDNAのもつ遺伝子情報が読み取られ、RNAが転写されます。生体内でのDNA(デオキシリボ核酸)の標準的な構造は二重らせん構造ですが、DNA特殊構造である四重らせん構造が形成されると転写が阻害されることが知られています。これまで、このような四重らせん構造の形成はがん関連遺伝子で多く報告されていましたが、細胞のがん化やその進行過程において、四重らせん構造がどのような影響を及ぼすかはわかっていませんでした。
 本研究では、四重らせん構造をもつDNAから転写されるRNAの生産量を正常細胞、がん細胞、悪性がん細胞内で比較しました。その結果、四重らせん構造をもたないDNAと比べて、正常細胞内では四重らせん構造をもつDNAから転写されるRNAは非常に少なく、四重らせん構造によって転写が抑制されていることがわかりました。一方で、がん細胞、悪性がん細胞中では、四重らせん構造をもつDNAからの転写量が徐々に増大することを見出しました。さらに、細胞内で形成されている四重らせん構造は、細胞の悪性がん化によって減少することも見出しました。
 これまでの杉本所長らの研究成果からカリウムイオン濃度が低下した溶液では四重らせん構造が大きく不安定化することが明らかになっています。がん細胞内においてカリウムイオン濃度を低下させるカリウムチャネルの発現量を解析した結果、悪性がん細胞ほどカリウムチャネルの発現量は増大し、四重らせん構造をもつDNAから転写される転写量も増大することがわりました。このことから、正常細胞において四重らせん構造は転写を阻害するが、悪性がん細胞では、四重らせん構造が不安定化され、がん関連遺伝子の転写が促進されたと考えられます。本研究成果は、がんの活性化に関わる新規の機構が解明されたと注目されています。

【図.四重らせん構造によって制御される転写機構】

 先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。