FIBERについて
所長挨拶
甲南大学・先端生命工学研究所(FIBER)は、生命分子工学分野において世界最高水準の研究・教育を実施する研究所として、2003年11月に設立されました。2004年度から5年間、文部科学省「学術フロンティア推進事業」の採択を受け、研究課題「有用な人工生命分子創製のためのテーラーメード・バイオケミストリー」を遂行し、科学的・社会的に極めて価値のある成果を収めてきました。また、同時に、高大連携活動・社会人講座・シンポジウムの開催を通して、社会貢献活動も積極的に実施してきました。2009年4月より、FIBERは甲南大学ポートアイランドキャンパスに移転し、同年より開校した甲南大学フロンティアサイエンス学部(FIRST)と連携した、新たな教育・研究活動拠点として生まれ変わりました。本キャンパスは「リサーチHUB兵庫」の一環である神戸医療産業都市に属し、産官学連携、地域の学術連携等の展開に有利な立地であります。これらの教育・学術研究に有利な状況を活かし、FIBERは先端的な学術領域「ナノバイオテクノロジー」に取り組んで参ります。
我々は既に、2009年度より5年間、「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(研究プロジェクト名「分子クラウディング環境を活用した遺伝子発現系で活躍する機能性分子のデザイン・開発システムの構築」)の採択を受け、研究を進展させて参りました。本プロジェクトでは、生命分子の性質、生命分子に及ぼす細胞内環境の影響などを物理化学的観点から解析をして参りました。これにより、種々の生体分子の中でも、核酸の構造と安定性は、周囲の化学環境の影響を受けやすいことを明らかにし、いずれのプロジェクトにおいても価値のある成果を収めてきました。そして2014年度からは「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(研究プロジェクト名「核酸の非標準構造を標的とした細胞応答の化学的制御技術の構築と先制核酸医工学への展開」)の採択を受け新たなる活動をスタート致しました。本プロジェクトでは、化学環境変化に対する細胞の応答を、核酸の非標準構造(二重らせん以外の核酸構造)に焦点を当て、分子レベルでの化学反応機構を定量的に解析しています。得られた知見を基に、疾患に関連する核酸の構造を、疾患発症に至る前に制するという新たな医工学技術の開拓を目指しています。さらに2022年度からは日本学術振興会「研究拠点形成事業」において、「非二重らせん核酸を活用した遺伝子発現の制御法を開発する核酸化学研究拠点」が採択されました。本計画では、5か所の相手国拠点機関(スロベニア、英国、米国、インド、イタリア)とともに、FIBERを中心とする非二重らせん核酸化学で、21世紀を先導する核酸化学の国際研究拠点の形成を目指そうとするものです。今後とも、新しいFIBERの活躍にご期待ください。
また、FIBERでは異なる学問領域の専門家を集めて連携し、また生命分子を定量的に扱うことのできる様々な分子を取り扱い定量化する施設を取りそろえています。このような体制は、本研究所の名称自体(FIBER)が表しているものといえます。FIBERは英文研究所名(Frontier Institute for Biomolecular Engineering Research)の略ではありますが、その語感は、細く長いファイバー(繊維)を強く意識させます。すなわち、細いファイバー(要素技術)であっても紡ぎ合わせれば強靱な束となり、Big Scienceを生み出せるのだという信念が、名前に込められています。さらに、束となったファイバー同士が”Coherent”となれば、互いに強め合い高度に組織化された有用なEngineeringの展開につながります。甲南学園の創立者・平生釟三郎氏は「人間は、おもしろいか、ありがたいかのいずれかでなければ」と述べています。FIBERは「おもしろいScience」と「ありがたいEngineering」を両輪として、研究を推進して参りたいと考えています。
今後、私どもの活動の束なりと広がりについて、この場でご報告させて頂きたいと考えています。関係各位の温かい御支援、御協力をお願い申し上げます。
先端生命工学研究所 教授・所長
村嶋 貴之