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【FIBER】遠藤講師、杉本所長の研究成果が独国化学会の学術誌「Angewandte Chemie International Edition」の表紙に掲載

2016/01/20

このたび、先端生命工学研究所(FIBER)杉本直己所長と遠藤玉樹講師は、米国ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のEriks Rozners教授の研究グループとの国際共同研究を行い、細胞の中で特定の遺伝子の発現を抑える分子(ペプチド核酸と呼ばれる人工的に設計された核酸分子)を開発しました。

遺伝子からタンパク質が作られるためには、メッセンジャーRNA(mRNA)という核酸が中間分子として存在しています。細胞内のmRNAは、塩基と呼ばれる化学構造の配列に依存して二重らせん構造(二本の鎖が螺旋状に巻き付いて作る構造)を作りますが、この二重らせん構造は簡単に解かれて一本の鎖になってしまいます。

先端生命工学研究所(FIBER)の杉本直己所長らの研究グループは、生命分子を構成する核酸の構造およびその安定性が、遺伝子の発現に与える影響について定量的な解析を進めてきました。その成果として、二重らせん構造とは異なる非標準的なmRNAの構造(四重鎖構造など)が、翻訳反応を抑制してタンパク質の発現量を抑えることを見出しています。本研究では、mRNAが二重らせん構造を形成している領域に、第三の鎖として人工的な核酸分子を巻きつけて三重らせん構造にすることで、タンパク質の発現を抑制することを試みました。天然の核酸分子から作られる三重らせん構造は、溶液が酸性の条件の時に存在できますが、その安定性は極めて低いことが知られています。そこで、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる人工的な核酸分子を基盤にして、中性条件でも安定な塩基対を形成する非天然塩基を導入することで、細胞の中でも安定に三重らせん構造を作る分子を設計しました。合成したPNAをヒト由来の培養細胞に導入した結果、標的の二重らせん構造を持つmRNAからのタンパク質の発現を、効率良く抑えることができることが明らかになりました。

この研究成果は、非標準的な核酸構造(三重らせん構造)を誘起する人工核酸(PNA)を用いて、合理的に遺伝子の発現を制御する優れた成果として注目され、化学分野を代表する国際学術誌である、独国化学会の学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました。

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も、生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。

Angewandte Chemie International Editionの表紙

【掲載論文】
Nucleobase-Modified PNA Suppresses Translation by Forming a Triple Helix with a Hairpin Structure in mRNA In Vitro and in Cells
(T. Endoh, D. Hnedzko, E. Rozners, and N. Sugimoto, Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 899)