リサーチトピック
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【FIBER】Annoni博士研究員、遠藤准教授、杉本教授の研究成果が英国王立化学会誌「Chemical Communications」の裏表紙に掲載
2016/06/27
このたび、先端生命工学研究所(FIBER)杉本直己所長と、遠藤玉樹准教授、Annoni Chiara博士研究員は、米国ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のEriks Rozners教授の研究グループとの国際共同研究を行い、細胞内で起こる核酸塩基の化学構造変化を高感度に検出する技術を開発しました。
DNAに保存された遺伝情報は、一度RNAという別の核酸分子に転写された後にタンパク質のアミノ酸配列に変換されます。細胞内では、転写されたRNAをタンパク質が認識し、RNA編集と呼ばれる塩基の化学構造の変化が起こることが知られています。特に、アデニン塩基の脱アミノ化によって起こるイノシンへのRNA編集反応は、タンパク質をコードするmRNAや、RNA干渉を引き起こすマイクロRNAなどを含む様々なRNAでみられます。このRNAの化学構造の変化は、翻訳されるアミノ酸やRNA自身の二次構造を変化させることで、細胞の分化、あるいは癌や神経変性などの疾患などに関わっている事が示されています。そのため、アデニンからイノシンへの化学構造の変化を検出する技術は、細胞の分化状態や疾患の診断技術への応用が期待されます。
FIBERの杉本所長らの研究グループは、アデニンからイノシンへの編集反応が二重鎖構造を形成している領域で起こる傾向にある事に着目し、イノシンを含むRNA二重鎖に結合して三重鎖構造を形成するペプチド核酸(PNA)を設計しました。合成したPNAを用いて蛍光シグナルによる解析を行ったところ、中性付近のpHにおいて1011 M−1という非常に高い結合定数でRNAと三重鎖構造を形成することが見出されました。また、塩基に結合している化学構造が“–NH2(アデニン)”か“=O(イノシン)”かのわずかな違いにも関わらず、編集後のイノシンを含むRNAでは編集前のアデニンを含むRNAに比較してPNAとの結合定数が300倍以上高くなることが分かりました。さらに、編集前と編集後のRNAが混在した状態であっても、10 pM以下(重量濃度換算で0.01 ppb以下)の編集後のRNAを検出できることが分かりました。この検出濃度は、これまでに報告されている蛍光シグナルを用いたRNA編集の検出で用いられている濃度よりも1000倍以上低い濃度になります。本研究で開発された技術は、編集後のRNAの診断技術だけではなく、RNA編集を行う酵素の阻害剤開発などにも利用できると考えられます。また、同研究グループはPNAが細胞内でもRNAを認識して三重鎖構造を形成できることを既に研究で示しているため、細胞内におけるRNA編集反応のリアルタイムでのイメージングなどにも利用できると期待されます。
本研究成果は、高感度かつ簡便なRNA編集反応の検出技術として注目され、英国王立化学会が出版する学術誌「Chemical Communications」に掲載され、掲載号の裏表紙を飾りました。
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も、生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。
【Chemical Communicationsの裏表紙】
–Reproduced by permission of The Royal Society of Chemistry
【掲載論文】
C. Annoni, T. Endoh, D. Hnedzko, E. Rozners and N. Sugimoto
Chem. Commun., 2016, 52, 7935-7938