リサーチトピック

  • ホーム
  • リサーチトピック, 未分類
  • 【FIBER】先端生命工学研究所と米国ニューヨーク州立大学ビングハムトン校との国際共同研究論文がACS Chemical Biologyに掲載され、掲載号の表紙(Supplementary Cover)に採択されました

リサーチトピック

【FIBER】先端生命工学研究所と米国ニューヨーク州立大学ビングハムトン校との国際共同研究論文がACS Chemical Biologyに掲載され、掲載号の表紙(Supplementary Cover)に採択されました

2021/07/27

   このたび、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の遠藤玉樹准教授、杉本直己所長・教授と米国ニューヨーク州立大学ビングハムトン校(Binghamton University, State University of New York)との国際共同研究論文が、米国化学会の発刊する学術誌「ACS Chemical Biology」に掲載され、掲載号の表紙(Supplementary Cover)に採択されました。
  細胞の中には、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる機能性RNAが存在しており、ヒトに限っても現在までに2000種類以上のmiRNAがデータベースに登録されています。miRNAは、生物としての機能(個体の発生など)に重要な役割を果たしているだけではなく、癌などの疾患の発症と進行とも関連していることが示されています。そのため、miRNAは疾患の発症を抑制したり、治療したりするための新たな創薬標的として注目を集めています。
miRNAの構造的な特徴として、細胞内で合成されるmiRNA前駆体(pre-miRNA)のほとんどが、ステムループ型の二次構造を形成するということが挙げられ、pre-miRNAからmiRNAへの成熟反応に関わるタンパク質による認識にも必要な基本構造となっています。個々のpre-miRNAのステム領域には、それぞれに特徴的な塩基対の並びが存在しています。そのため、この塩基対の並びを特異的に認識して強く結合できる分子を構築できれば、特定のpre-miRNAからmiRNAへの成熟とその機能を阻害することができると想定されます。
   FIBERでは、米国ニューヨーク州立大学ビングハムトン校のEriks Rozners教授のグループとの国際共同研究を行い、RNAの二重らせん領域(ステム領域)を特異的に認識して三重らせん構造を形成する人工核酸として、ペプチド骨格を有するPeptide Nucleic Acid (PNA)を開発しています。これまでに、人工的な遺伝子発現制御やRNAの化学修飾の検出などに活用してきました(詳細は過去の記事でも紹介されています(過去記事1過去記事2)。
  今回の研究では、癌細胞の増殖や炎症性の皮膚疾患などとの関連性が報告されいているmiRNA(miR-197)を標的に三重らせん構造を形成するPNAの設計、合成を行いました。そして、細胞内でpre-miR-197からmiR-197への成熟を抑制できることを実証しました。上述のように、ほとんどのpre-miRNAは特徴的なステム領域を有しています。そのため、miRNAごとにPNAを設計することで、任意のmiRNAの成熟と機能を特異的に阻害する汎用性の高い創薬技術への研究展開が期待されます。

【研究成果の掲載号】 
● ACS Chemical Biology誌へのリンクはこちらです。

 【掲載された論文】
“Triple-Helical Binding of Peptide Nucleic Acid Inhibits Maturation of Endogenous MicroRNA-197”
T. Endoh, N. Brodyagin, D. Hnedzko, N. Sugimoto, and E. Rozners, ACS Chem. Biol., 16, 1147-1151 (2021)

   先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。