リサーチトピック
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【FIBER】先端生命工学研究所とスロベニア国立NMRセンターとの国際共同研究論文が英国核酸科学誌「Nucleic Acids Research誌」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました
2021/09/13
このたび、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)のSagar Satpathi博士研究員、遠藤玉樹准教授、杉本直己所長・教授とスロベニア国立NMRセンターとの国際共同研究論文が、英国核酸科学誌「Nucleic Acids Research誌」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました。
私たちは日々、様々な化学物質を食物から摂取しています。その中でも、ファイトケミカルと呼ばれる植物に由来する化合物群は、ヒトには作り出すことが出来ない特徴的な化学構造を持ったものが多く存在しています。ファイトケミカルの中には、ヒトの健康状態などにも影響を与える生物活性を有するものが存在しています。近年、一部のファイトケミカルが示す生物活性が、細胞内の核酸分子であるRNAに直接的に結合することで引き起こされている可能性が議論され始めています。特に、ファイトケミカルの中でもアルカロイドやポリフェノールなどに分類される化合物群の中には、核酸分子との相互作用が予測される平面的な化学構造を持ったものが多く存在しています。そのため、どのようなファイトケミカルがどのようなRNA分子と相互作用する可能性があるのかを解析していくことは、ファイトケミカルが示す生物活性の分子機構を解明し、将来的なRNAを標的とした薬剤化合物を開発していくうえでも重要な課題となってきます。
今回FIBERでは、抗菌活性、抗炎症作用などを示すことが知られるベルベリンと名付けられたファイトケミカルに着目し、ベルベリンが相互作用するRNAをヒト由来のRNAの中から選別することを行いました。具体的には、以前にFIBERで開発されたRNAキャプチャー微粒子群(R-CAMPs)と呼ばれる、個別の配列を持つRNAが固定化された何百万種類もの微粒子を用いて、ベルベリンが結合するRNAの選別を行いました。その結果、ベルベリンが「UCG」という配列と「UA」という配列が向き合って形成されるシンプルなRNAの二次構造領域に選択的に結合することを見出しました。さらにFIBERでは、スロベニア国立NMRセンターのJanez Plavec博士の研究グループと国際共同研究を行い、RNAとベルベリンが結合した状態の構造解析に成功しました。その結果、「UCG」と「UA」の配列のうち、シトシン(C)がはみ出して形成されるバルジと呼ばれる構造にはまり込むようにベルベリンが結合していることが明らかになりました。
本研究成果により、ベルベリンがRNAに直接相互作用することで生物活性を発現している可能性を示すことが出来ました。また、複合体としての構造が明らかとなったことから、ベルベリンの化学構造を基に、より強くRNAに結合できる化合物を人工的に設計できると考えられます。
【研究成果の掲載号】
● Nucleic Acids Research誌へのリンクはこちらです。
【掲載された論文】
“Transcriptome screening followed by integrated physicochemical and structural analyses for investigating RNA-mediated berberine activity”
S. Satpathi, T. Endoh, P. Podbevšek, J. Plavec, and N. Sugimoto, Nucleic Acids Res., 49, 8449-8461 (2021)
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。