リサーチトピック
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【FIBER】先端生命工学研究所によるRNA高次構造の熱安定性解析に関する論文が英国王立化学会「Chemical Communications誌」に掲載され、掲載号の中表紙(Inside Front Cover)に選出されました
2022/05/18
このたび、先端生命工学研究所(FIBER)杉本直己所長とSagar Satpathi博士研究員、遠藤玉樹准教授らの研究グループは、RNAが形成する特徴的な高次構造であるpseudoknot(シュードノット)構造に関して、その熱安定性を予測できる研究成果を得ました。この研究成果は、英国王立化学会が出版する「Chemical Communications誌」に掲載され、掲載号の中表紙(Inside Front Cover)に選出されました。
私たちヒトの遺伝情報(ヒトゲノム)の中で、機能分子としてのタンパク質になる領域はわずか1.5%程度です。一方で、ヒトゲノムの実に70%近くがDNAからRNAに転写されていると言われています。近年、DNAからタンパク質に至る遺伝子の発現過程で、情報を仲介する分子として考えられていたRNAが、主体的に生命現象を調節する分子機構が明らかになりつつあります。RNAは、様々な高次構造を形成することでその機能を発揮します。その中でもシュードノットと呼ばれる構造は、より複雑な高次構造を形成するための基本構造となります。また、シュードノット構造そのものが、遺伝子の発現調節に重要な役割を果たしている例も明らかになっています。例えば、新型コロナウイルスのタンパク質が発現する過程では、シュードノット構造により2種類のウイルスタンパク質の発現比率が調節されています。
甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)では、DNAやRNAといった核酸分子の安定性を、二重らせん構造中の隣り合った塩基対の組み合わせ(最近接塩基対)から予測できるパラメータの取得を進めてきました。これまでに得られている研究成果については、様々な学術論文の表紙などにも取り上げられています(関連記事1、関連記事2、関連記事3など)。RNAのシュードノット構造についても、重なり合った2つの二重らせん構造から形成されているため、最近接塩基対からその安定性を予測できる可能性がありますが、安定性予測のモデルを適用できるか否かの検証は行われてきませんでした。そこで本研究では、シュードノット構造全体ではなく、シュードノット構造を構成する2つの二重らせん領域のうち、一方の領域に焦点を絞った解析手法を新たに構築しました。その研究成果として、Hタイプと呼ばれるシュードノット構造に関して、最近接塩基対からその安定性を予測することが可能であることを示しました。本研究による成果により、シュードノット構造の安定性が、RNA機能の発現にどの程度寄与するのかを定量的な数値で示すことができるようになります。また、周囲の溶液環境に依存したシュードノット構造の安定性の変化が、疾患などにも関連するRNAの機能変動とどのように相関しているのかを議論できるようにもなると期待されます。
【研究成果の掲載号】
Chemical Communications誌へのリンクはこちらです。
掲載号の中表紙(Inside Front Cover)はこちらです。
【掲載された論文(オープンアクセス)】
Applicability of the nearest-neighbour model for pseudoknot RNAs
(Sagar Satpathi, Tamaki Endoh and Naoki Sugimoto, Chem. Commun., 58, 5952–5955 (2022))
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。