リサーチトピック
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【FIBER】先端生命工学研究所によるRNAを用いた細胞内での複数分子の蛍光検出技術に関する論文が米国化学会が発行する「Analytical Chemistry誌」に掲載され、掲載号の表紙(Supplementary Cover)に選出されました
2023/01/18
この度、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の遠藤玉樹准教授、杉本直己教授の研究グループは、中国中山大学の研究グループとの国際共同研究を行い、RNAの配列を進化させることで、複数種類の標的化合物を異なる蛍光色を用いて細胞内で同時に検出する技術を開発しました。
2008年のノーベル化学賞(緑色蛍光タンパク質の発見と応用)に代表されるように、蛍光シグナルを発する生体分子の開発、およびそれらを用いた蛍光イメージング技術は、生命科学の発展に欠かせないものとなっています。これまでの多くの研究では、GFPを代表とする蛍光タンパク質、もしくは蛍光色素を共有結合させた生体分子がイメージング対象として用いられてきました。近年になり、溶液中では無蛍光の化合物に結合することでその蛍光シグナルを劇的に増大させるRNA(ライトアップアプタマー)が開発され、細胞内のRNAイメージングに利用されています。また、特定の分子と相互作用してライトアップアプタマーの構造が再構成されるように設計することで、RNAをセンサーとして活用した分子イメージング技術も開発されています。しかしながら、これまでの研究例では、一種類のセンサーRNAを細胞内で発現させてイメージングすることに留まっていました。
FIBERの研究グループは、異なる波長の蛍光色を示す化合物に対して、それぞれを特異的に認識するライトアップアプタマー(直交性ライトアップアプタマー)を創出することで、センサーRNAによる複数分子の多色同時イメージングが可能になると想定しました。そこで本研究では、ライトアップ特性を示す化合物の合成で実績のある中国中山大学の研究グループとの国際共同研究を行いました。具体的には、既に報告されている緑色の蛍光色を示すライトアップアプタマーを基に、様々な変異を加えた200万種類近いRNAのバリエーション(ライブラリ)を構築しました。そしてライブラリの中から、異なる蛍光色を示す化合物を特異的に認識してそれぞれの蛍光シグナルを増大させる直交性ライトアップアプタマーを選別しました。選別には、FIBERで独自に開発された、RNAキャプチャー微粒子群(R-CAMPs)と呼ばれる、個別の配列を持つRNAが固定化された何百万種類もの微粒子を作製する技術を利用しました(特開2019-146516、発明者:遠藤玉樹、杉本直己)。その結果、青色、緑色、赤色の蛍光色を発する直交性ライトアップアプタマーの創出に成功しました。また、青色と緑色については、細胞内でのRNAイメージングも可能であり、別の研究で構築されている赤色の蛍光色を発するライトアップアプタマーと合わせて、3種類のRNAの多色イメージングに成功しました。さらに本研究では、青色と緑色の蛍光色を発するライトアップアプタマーを改変したセンサーRNAも構築しました。その結果、細胞内の代謝産物であるSアデノシルメチオニン(SAM)を緑色、薬剤化合物であるテオフィリン(Theo)を青色の蛍光色で同時検出することに成功しました。赤色の蛍光色を示すRNAも同時に用いることで、SAM、Theoの濃度を異なる蛍光色で同時かつ定量的に解析できることも明らかとなりました。
本研究は、RNAをセンサーとして活用し、複数種類の標的分子を同一細胞内で同時に検出、イメージングする技術としの有用性が評価され、米国化学会が発行する「Analytical Chemistry誌」に掲載されると共に、掲載号の表紙(Supplementary Cover)に選出されました。
【Anal. Chem.誌の掲載号】
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【掲載された論文】
Cladogenetic Orthogonal Light-Up Aptamers for Simultaneous Detection of Multiple Small Molecules in Cells
(Tamaki Endoh, Jia-Heng Tan, Shuo-Bin Chen, and Naoki Sugimoto, Anal. Chem., 95, 976-985 (2023))
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【掲載号の表紙(Supplementary Cover)】
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。