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【FIBER】先端生命工学研究所のミトコンドリア内部のDNA構造に関する論文が英国科学誌「Communications Chemistry誌」に掲載され、掲載号のFeatured Imageに選出されました

2025/07/01


このたび、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)のLiu Lutan博士研究員、髙橋俊太郎准教授、杉本直己特別客員教授らと理化学研究所および京都大学との共同研究グループは、細胞内のミトコンドリアで形成されるDNA四重らせんの評価法を世界に先駆けて開発しました。本共同研究の成果として研究論文が英国科学誌Nature誌の姉妹紙「Communications Chemistry」誌(電子版)に掲載され、雑誌のFeatured Imageに選出されました。

ミトコンドリアは生命のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を合成する細胞小器官です。そのため、ミトコンドリアの活性は細胞の恒常性を保つために極めて重要です。細胞には核の中に染色体DNAがありますが、ミトコンドリアにも独自のDNA(mtDNA)があり、ATP合成に必要な遺伝子が働いています。mtDNAの遺伝子が何らかの原因で変異すると、細胞の老化やがん化が 引き起こされます。遺伝子変異の原因の特徴の一つとして、通常二重らせんのDNA上に形成される四重らせん構造が上げられます。mtDNAにはグアニン四重らせん構造を形成する配列が多く含まれていることから、ミトコンドリア内のグアニン四重らせん構造の形成を予測・評価する手法の開発が急務でした。そこで本研究では、DNA四重らせん構造の形成挙動をミトコンドリア内部の環境を模倣した様々な溶液を用いて検討しました。さらに、理化学研究所・京都大学の沼田教授・吉永博士が開発したミトコンドリアへDNAを送達する技術を用い、グアニン四重らせん構造の形成によってミトコンドリアを蛍光で光らせる評価技術を開発しました。ヒトのがん細胞(HeLa細胞)に対して行った結果、ミトコンドリアは細胞核内よりも分子で込み合った環境にあり、そのため、グアニン四重らせん構造が形成しやすいことを明らかにしました。このようなグアニン四重らせん構造を優位に形成できるミトコンドリアの環境を人工的に再現することができました。本研究の成果を活かし、今後は細胞の環境によってミトコンドリア内の四重らせんに及ぼす影響を解析することで、老化やがん化を防ぐ新しい医工学技術開発への寄与が期待できます。

本発表は甲南学園新世紀戦略プロジェクト(第I期)に関する研究成果です。また、日本学術振興会科学研究費助成事業((22H04975、24K01631))、 日本学術振興会研究拠点形成事業、公益財団法人伊藤忠兵衛基金ならびに公益財団法人旭硝子財団研究助成の支援の下に行われました。

【Featured Imageが掲載された雑誌のホームページ】

【Communications Chemistry誌(電子版)】掲載ページのリンクはこちです。

【掲載された論文】

“Predictability of environment-dependent formation of G-quadruplex DNAs in human mitochondria”

L. Liu, S. Takahashi, S. Ghosh, T. Endoh, N. Yoshinaga, K. Numata, and N. Sugimoto, Communications Chemistry, 8, 135 (2025

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。