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【FIBER】先端生命工学研究所によるRNAに結合する新規人工化合物の開発に関する研究成果が「New Journal of Chemistry誌」に掲載され、掲載号の表紙に選出されました

2024/05/17

この度、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の兼任教員である遠藤玉樹准教授、杉本直己特別客員教授の研究グループは、東北大学多元物質科学研究所およびスロベニア国立NMRセンター(日本学術振興会の「研究拠点形成事業」で採択されている研究プロジェクトにおけるスロベニア拠点の研究機関)との国際共同研究を行い、特定のRNA二次構造に結合する天然化合物に人工的な修飾を加え、RNAに対する結合親和性を飛躍的に高めることに成功しました。

これまで開発されてきた医薬品は、そのほとんどがタンパク質を標的としています。しかしながら、疾患に関与し、なおかつ薬剤分子が結合できる構造特性を持つタンパク質の数には限りがあります。また、既に様々な医薬品が開発されてきたことから、薬剤開発の標的となるタンパク質が枯渇しつつあります。このような状況において、タンパク質に代わる新たな標的分子としてRNAが注目を集めています。

FIBERでは、ベルベリンと名付けられた植物由来の天然の代謝産物(ファイトケミカル)が、「UCG」という配列と「UA」という配列が向き合って形成されるシンプルなRNAの二次構造領域に選択的に結合することを見出しました。ファイトケミカルは、これまでのタンパク質を標的とした医薬品開発でもシード化合物として利用されてきました。そこで本研究では、ベルベリンを薬剤候補分子のシード化合物モデルとし、人工的な化学修飾によりRNAに対する結合親和性を高めることを目的とした国際共同研究を展開しました。具体的には、東北大学多元物質科学研究所と共同で、ベルベリンにグアニジノ基を化学修飾した新たな人工化合物を設計して合成しました。化合物の分子設計は、過去にスロベニア国立NMRセンターとの共同研究で明らかにしたベルベリンとRNAとの複合体構造を参照し、RNAとベルベリンとの直接的な結合に必要な部位を残すように合理的に行いました。結果として、新たに合成したグアニジノ基修飾ベルベリンは、標的RNAに対する結合親和性をベルベリンに比較して10倍以上上昇させることが示されました。加えて、RNAの構造安定性を増大させ、その結果として、レポーターmRNAからのタンパク質の発現を効果的に抑制できることが示されました。このようなRNAに対する結合親和性とタンパク質の発現抑制効果の向上が得られたのは、グアニジノ基とRNAとの間に新たな水素結合が形成されたためであることが分子動力学シミュレーションの結果からも支持されました。

今回の研究はベルベリンをモデル化合物として使用しました。今後、他のRNA結合性を示す化合物にグアニジノ基を化学修飾することで、簡便にRNAに対する結合親和性を高めことができると考えられます。これにより、癌疾患などに関わるマイクロRNA、神経疾患に関わるリピート配列RNAなどを標的に、RNA機能を制御する分子の開発が可能になると期待されます。そのため、本研究成果はRNAを標的とした創薬研究を飛躍的に加速させる研究成果として注目され、英国王立化学会が出版するNew Journal of Chemistry誌に掲載されるとともに、掲載号の表紙に選出されました。

FIBERは、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。

【掲載された表紙】

【掲載された論文】

Guanidine modification improves functions of natural RNA-targeting alkaloids

  1. Endoh, S. Satpathi, Y. Chen, S. Matsumoto, T. Ohyama, P. Podbevšek, J. Plavec, K. Onizuka, F. Nagatsugi, N. Sugimoto, New J. Chem., 48, 8529-8533 (2024)