リサーチトピック
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【FIBER】遠藤准教授、杉本所長による総説が学術総説誌「The Chemical Record」の表紙を飾りました
2017/10/06
このたび、先端生命工学研究所(FIBER)杉本直己所長と遠藤玉樹准教授は、遺伝子の発現過程におけるメッセンジャーRNA(mRNA)のダイナミックな構造の重要性に焦点をあてた総説を学術総説誌「The Chemical Record」に発表しました。
細胞内での遺伝子発現過程(セントラルドグマ)の中でも、情報を有する核酸分子から機能を発揮するタンパク質分子への変換過程は、生命現象の根幹を成す最も重要な反応の一つです。セントラルドグマでは、DNAの塩基配列に保存された情報がまずmRNAに転写され、次にmRNAを鋳型にして新しいタンパク質の合成反応(翻訳)が進んでいきます。これまでmRNAは、DNAの塩基配列情報をタンパク質のアミノ酸配列に伝えるための単なる中間分子であると考えられてきました。
ところが近年の研究では、mRNAが非標準的な構造(非標準核酸構造)を形成することで、遺伝子の発現を積極的に調節していることが明らかになりつつあります。FIBERでは、DNAやRNAといった核酸分子の挙動に関する物理化学的な解析研究を行う中で、核酸分子の熱安定性や形成速度が周囲の分子環境や化学環境に大きく影響されることを見出してきています。
つまり、細胞内では、mRNAの構造が細胞内の環境に応じてダイナミックに変化することで、遺伝子の発現が適切に調節されている可能性が考えられます。
このたび発表した総説では、mRNAの構造が関与する遺伝子の発現調節機構に関して、これまでの研究報告から得られている知見と共に、FIBERにおける研究成果を紹介しました。
さらに、疾患関連遺伝子の発現を制御する人工分子(薬剤候補分子)を作製するために、セントラルドグマにおけるmRNAのダイナミックな構造を標的とした新戦略の重要性について提唱致しました。
本総説は、The Chemical Recordにおける掲載号の表紙を飾りました。
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。
【掲載総説】
Conformational Dynamics of mRNA in Gene Expression as New Pharmaceutical Target
(T. Endoh and N. Sugimoto, Chem. Rec., 2017, 9, 817)