リサーチトピック
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【FIBER】杉本直己所長らがDNAの四重らせん構造が遺伝子の複製を阻害する仕組みを解明しました
2017/08/22
甲南大学先端生命工学研究所の杉本直己所長と髙橋俊太郎講師は、DNAの四重らせん構造がDNAの複製を阻害する仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。今回明らかにされた仕組みが、がんの発生に関係している可能性があります。
この研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌」に掲載されるのに先立ち、オンライン版(外部リンク)に掲載されました。
なお、本研究は、英国Reading大学John Brazier博士との国際共同研究で行われました。
生体内での核酸(DNA:デオキシリボ核酸、RNA:リボ核酸)の標準的な構造は、二重らせん構造ですが、核酸は、四重らせん構造も形成することができます。四重らせん構造が形成されると、細胞寿命やがん化に関わるテロメアの伸長反応、さらには、感染したウイルスの増幅に関わる逆転写反応などの様々な生体反応が阻害されることが近年明らかになってきました。そのため、疾患関連の遺伝子に人為的に安定な四重鎖を作ることができれば、疾患発症を制御する薬剤の開発につながるため、四重らせん構造の安定性に関わる相互作用解析が行われてきました。
【研究概要】
生体内で遺伝情報を保持しているDNA(デオキシリボ核酸)の標準構造は二重らせん構造ですが、DNAの特定の部位では四重らせんなどの特殊な構造も形成します。四重らせん構造は、グアニン四重らせん構造(G四重らせん)とi-モチーフ構造があり、配列や環境の違いでトポロジー(らせんの巻き方)が変化します。しかし、このような四重らせんの構造の違いとがん発生との因果関係ついてはほとんど明らかになっていませんでした。
今般、杉本所長らのグループは、ヒトのがんに関わる遺伝子に存在する四重らせん構造が、DNA複製反応に及ぼす影響を定量的に解析したところ、二重らせんタイプのヘアピン構造よりもG四重らせん構造やi-モチーフ構造がDNA複製反応を効率的に阻害することを見出しました。またその阻害効果が、らせんの巻き方の違いによっても異なることを明らかにしました。
特に、生体内の役割が未解明だったi-モチーフが、最も効果的にDNAの複製反応を阻害することが分かりました。これらの阻害効果は、溶液環境の違いで四重らせんの巻き方が変わることでも変化しました。四重らせんのDNA配列は、がん遺伝子に多く存在しています。細胞内で遺伝子が複製される際には、四重らせん構造は通常ほどかれますが、何らかの原因で四重らせん構造がほどかれずにいると、DNA複製反応が阻害されます。その結果、誤った遺伝情報が生じ、がん発生の原因となります。今回の研究成果は、四重らせんの巻き方が変わることで、がんが発生するメカニズムを示唆するものです。
本研究で得られた知見を活用することで、四重らせん構造の形成を人為的に抑え、異常停止するDNA複製反応を正常化できるようになると考えられます。 今後、四重らせんの安定性や巻き方を変え、複製反応を制御できる化合物を探索・設計することで、がんの予防・治療ができる新薬の開発が期待できます。
本研究に関する具体的内容はこちらをご参照ください。
先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。