リサーチトピック

  • ホーム
  • リサーチトピック
  • 【FIBER】杉本直己所長らが酸化損傷したDNA四重らせんの機能を回復する新規核酸医薬の開発に成功

リサーチトピック

【FIBER】杉本直己所長らが酸化損傷したDNA四重らせんの機能を回復する新規核酸医薬の開発に成功

2018/05/01

 甲南大学先端生命工学研究所の杉本直己所長と髙橋俊太郎講師は、酸化ストレスにより損傷したがん遺伝子のDNA四重らせん構造を回復させる核酸分子の開発に成功しました。今回開発された分子は、がんの予防や治療を行う新規核酸医薬品としての活用が期待できます。この研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society誌」誌のオンライン版に掲載され、掲載号の表紙(Supplementary Journal Cover)としても採択されました。また、本研究内容は2018年4月27日付日刊工業新聞に取り上げられました。なお、本研究は、韓国ポハン工科大学校とスロベニア国立NMRセンターとの国際共同研究で行われました。

【研究概要】
  生体内でのDNA(デオキシリボ核酸)の標準構造は二重らせん構造ですが、がん遺伝子にはグアニン四重らせん(G四重らせん)を形成する配列が多く含まれ、その形成によってがん遺伝子の発現がコントロールされています。がん細胞は健康細胞よりも酸化的レベルが高く、がん遺伝子上のG四重らせんの酸化が細胞のがん化の原因の一つと考えられてきました。しかしこのような酸化損傷を受けたG四重らせんをターゲットとし、がんの予防や治療を行うことのできる医薬品の開発はこれまでありませんでした。
  今般、杉本所長らのグループは、ヒトのがん遺伝子の一つであるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)遺伝子に存在するG四重らせん構造に酸化損傷が加わると、その四重らせん構造の形が変化し、機能が失われることを確認しました。これは四重らせんを構成する一本の鎖が酸化を受けることで損傷を受けていない他の三本の鎖との相互作用が変化したことが原因でした。
  そこで、損傷した一本の鎖の代わりとなる健全なDNA鎖とその片末端にG四重らせんを安定化する効果を持つ分子の一つであるピレンを共有結合させた人工核酸分子を作成しました。この人工核酸分子は、酸化損傷したG四重らせんの一本の鎖と置き換わり、他の三本の鎖と安定にG四重らせん構造を形成しました(下図参照)。形成したG四重らせんは、その構造や遺伝子発現などの機能が非酸化体のG四重らせんと同程度であり、人工核酸分子によって酸化したG四重らせんの機能を回復させることができました。
  近年次世代の医薬として核酸を用いた核酸医薬が注目されております。今回の開発した人工核酸分子は、あらゆる酸化損傷したG四重らせんの構造と機能を回復し、がん予防・治療のための新規核酸医薬としての活用が期待されます。


【図. ピレン結合型人工核酸によって酸化したG四重鎖を回復する様子の模式図】

本研究に関する具体的内容はこちらをご参照ください。

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。