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【FIBER】先端生命工学研究所のRNA二重らせん構造の安定性予測に関する論文が英国核酸科学誌「Nucleic Acids Research誌」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました

2023/06/20

甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の杉本直己 所長・教授、GHOSH Saptarshi特任研究助教、高橋俊太郎 准教授らの研究グループは、細胞内のRNA二重鎖構造の安定性を高精度に予測する手法を開発しました。この研究成果によって、遺伝性疾患やウイルス感染症の次世代の治療法であるRNAi治療をはじめとする、核酸医薬の効果を飛躍的に向上できる可能性があります。この研究成果は、英国核酸科学誌「Nucleic Acids Research誌」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました。

RNAは遺伝物質の一種で、DNAの遺伝情報からタンパク質が作られる際の伝達物質などとして細胞内に存在します。また新型コロナウイルス等のウイルスのゲノムとしての役割もあります。RNAの分子構造は、核酸塩基と呼ばれるアデニン、ウラシル、グアニン、シトシンの四種類を単位として連なった一本の直鎖状の形状をとります。これらの核酸塩基にはアデニンとウラシル、グアニンとシトシンがそれぞれペア(塩基対)を組むことできる性質があります。そのため、RNAは塩基対形成によって二重鎖構造を形成することができます。細胞などの生体内では、RNAが二重鎖を形成することで遺伝子の機能が制御されることがあります。特に、2006年にノーベル生理学・医学賞の対象となったRNA干渉(RNA interfernce: RNAi)は、標的となるRNAに短いRNAが二重鎖を形成することで、そのRNAが分解される遺伝子発現調節の機構です。そのため、RNAiを活用して疾患の原因となる遺伝子のRNAや、ウイルスゲノムのRNAを分解して疾患や感染症の治療を行う技術が新しい医薬技術として注目されています。

これまで、二重鎖のできやすさは塩基対の組み合わせで決まることが知られており、その予測法も確立されていました。しかし、通常実験を行う食塩水のような溶液環境と異なり、細胞内の生体環境は高濃度に分子で混み合った濃厚な溶液環境です。このような溶液環境での二重鎖構造のできやすさを予測することはこれまで困難だったため、RNAi治療薬に用いるRNAの設計は手探りの状態だったのが現状です。

今回、FIBERの研究グループは、医薬品添加物としても用いられる水溶性高分子であるポリエチレングリコールを用いることで、細胞内の混み合った環境を人工的に再現しました。調整した人工環境でRNA二重鎖のできやすさを解析することで、細胞内のRNAの二重鎖のできやすさを予測することができる新しい予測法の開発に成功しました。本手法を用いることで、細胞の核、核小体、さらには細胞質といった異なる細胞内環境にあるRNA二重鎖のできやすさを正確に予測することができます。本研究成果により細胞の環境に合わせて核酸医薬を設計することで、その効果を飛躍的に向上させることが期待できます。

本研究は、英国核酸科学誌「Nucleic Acids Research誌」に掲載され、掲載号の表紙を飾りました。

【Nucleic Acids Research誌の掲載号】NAR誌へのリンクはこちらです。

【掲載された論文】

Nearest-neighbor parameters for the prediction of RNA duplex stability in diverse in vitro and cellular-like crowding conditions
S. Ghosh, S. Takahashi, D. Banerjee, T. Ohyama, T. Endoh, H. Tateishi-Karimata, and N. Sugimoto, Nucleic Acids Res., 51, (2023) 4101-4111.

【表紙】

※本研究に関する具体的内容はこちらをご覧ください。

 

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。