リサーチトピック

  • ホーム
  • リサーチトピック
  • 【FIBER】先端生命工学研究所の四重らせん構造に結合して抗がん活性を示す化合物に関する論文が英国科学誌「Scientific Reports誌」に掲載されました

リサーチトピック

【FIBER】先端生命工学研究所の四重らせん構造に結合して抗がん活性を示す化合物に関する論文が英国科学誌「Scientific Reports誌」に掲載されました

2023/09/19

このたび、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)のDas Sinjan博士研究員、髙橋俊太郎准教授、杉本直己所長・教授らとインドCalcutta大学との国際共同研究グループは、細胞内のi-モチーフと呼ばれる四重らせん構造に結合して抗がん活性を示す化合物の作用メカニズムを解明しました。本国際共同の成果として研究論文が英国科学誌Nature誌の姉妹紙「Scientific Reports」誌(電子版)に掲載されました。

近年医療技術の発展が目覚ましい一方で、我が国では未だがんが死因のトップです。そのため、がん撲滅のための優れた抗がん剤の開発は今世紀最大の課題の一つとなっています。抗がん剤の多くは細胞内の核酸(DNAやRNA)に作用するため、正常な細胞の核酸も傷つけることで正常な細胞をがん化させてしまう可能性があります。一方で、発がん性が疑われる物質は逆に抗がん剤として機能する可能性を秘めており、抗がん剤の重要な薬剤候補であるとも考えられます。今回、FIBERの研究グループは、インドCalcutta大学のSudipta Bhowmik博士と共同で、発がん性が指摘されている色素の一つであるクリスタルバイオレットと様々ながん細胞で活性化している遺伝子のDNAとの相互作用を解析しました。その結果、クリスタルバイオレットが、がん遺伝子の一種であるBCL2のDNAの一部に存在するi-モチーフ型DNA四重らせんに特異的に結合することを見出しました。変異体解析や分子動力学計算によって、クリスタルバイオレットはBCL2遺伝子のi-モチーフ構造中のループ領域と呼ばれる部分に特異的に相互作用していることが示唆されました。クリスタルバイオレットの抗がん特性を調べるために、ヒト乳がん細胞(MCF-7)にクリスタルバイオレットを添加したところ、BCL2遺伝子の発現量が有意に減少したことから、クリスタルバイオレットがDNA四重らせん構造をターゲットとした抗がん剤として働くことが明らかになりました。これまで特定のi-モチーフ型DNA四重らせんに結合して遺伝子発現を制御する分子の報告例はほとんどありませんでした。したがって、クリスタルバイオレットはi-モチーフ型DNAをターゲットとして特定のがん遺伝子の発現を抑えるという新しい作用機序をもつ抗がん剤として作用すると考えられます。本研究成果を元に、クリスタルバイオレットのi-モチーフの選択性をより向上させるような分子設計を施すことにより、発がん性や副作用を抑えた新しい抗がん剤の開発が期待できます。

【Scientific Reports誌(電子版)】掲載ページのリンクはこちらです。

【掲載された論文】

Theranostic approach to specifically targeting the interloop region of BCL2 i-motif DNA by crystal violet
S. Das, S. Takahashi, T. Ohyama, S. Bhowmik, and N. Sugimoto, Scientific Reports, 13, 14338 (2023).

※本研究に関する具体的内容はこちらをご覧ください。

 

先端生命工学研究所(FIBER)は、今後も生命化学分野における研究開発を通じて、科学技術の振興と研究成果を通じた社会還元に寄与してまいります。